V.STS実施団体のSTSへの意識


 第二項では、アンケートの設問に対する回答について分析しました。しかしながら、それに団体の考え全てが現れているとは断定できず、より各団体の意見を掘り下げる必要があります。そこで、第二項で取り上げたアンケートの自由記載欄及び欄外記入について分析し、連絡会及びSTサービス全体の発展に向けた、各団体の意見を汲み上げることとします。
 各団体の意見が多岐に渡ったため、分類の項目は、国や市町村、ネットワークなど各項目の実施主体毎としました。


1.実施主体別の分類


 分析の結果、実施主体は、国、都道府県、市町村、STサービスネットワーク、STサービス実施団体、研究部門、その他の7つに分類されます。国、都道府県、市町村には、立法機能と行政機能が含まれます。関西STS連絡会など、いくつかの団体が集まり、都道府県レベルで活動する団体を、STサービスネットワークとしました。また、学府やシンクタンクなど、STサービスを直接行わず、調査・研究のみを行っている機関については研究部門としました。
 1つの項目が複数の実施団体に分類されているケースもありますが、これは双方が取り組む必要がある場合です。
 実施主体間の関係を図14に示します。


図14 実施主体間の関係図


2.実施主体間の関係


@ネットワークと個々の団体

 ネットワークには、特に個々の団体をまとめ、外部に対しての代表機能、加盟団体に対する支援などが求められます。
 代表機能に関してですが、大規模にSTサービスを実施している団体は稀であり、ほとんどか小規模で行っていることから、認知度や信用が慨ね低いです。そこで、潜在的なSTサービス希望者や、行政当局、一般市民、他地域からの利用希望者などに対しての窓口として、加盟団体と外部の双方にアクセスの容易さをもたらすものと思われます。
 加盟団体に対する支援ですが、運営上の問題についての相談受付や、運営ノウハウや各種の情報の提供などが挙げられます。
 その他に、新たにSTサービス事業をはじめようとする団体に対して、その立ち上げの支援を通して裾野を広める活動が求められています。
 個々の団体はネットワークに対して、運営ノウハウや、入手した情報を提供することが求められます。提供したものについては、ネットワークを通じて共有されます。また、ネットワークから依頼された相談などを受けることも求められます。



Aネットワークと都道府県

 個々の団体が求める役割から、ネットワークは複数の市町村をまたいでの活動が主となります。この場合、各市町村とそれぞれでやり取りするよりも、都道府県が窓口となったほうが労力が少なくて済み、また、政策の一貫性といった面からも望ましいと思われます。
 都道府県に求められる役割として重要と思われるものに、都市部以外の地域に対する配慮ということがあります。一般に都市部のほうが、福祉に対する意識が高く、ボランティア等の担い手となる若い人材が多いこともあって、事業が興りやすいという側面があります。また、病院や商店等の目的地もほとんどが都市部にあり、近距離の移動ですむため、事業的にも効率が上がりやすく、運営が比較的容易であると思われます。地方部、特に過疎地域では担い手となる若い人材が相対的に少なく、また、目的地までも遠距離となるために効率が悪く、運営は困難と思われます。そこで都道府県には、地方部、過疎地域に対する配慮が求められ、STネットワークも立ち上げ支援等などの協力が求められます。


Bネットワークと国

 日本全体が守備範囲である国が、一地域のことについて直接関与することはナンセンスです。また、都道府県を代表する組織であっても、それでも47分の1であり、直接かかわることは効果が薄いと思われますが、正式に全国のSTサービス実施団体を代表する組織が存在しない現状では、ネットワークは、都道府県の他に国とも関与が必要です。
 特に、憲法が生存権を謳っている以上、通院や生活目的の移動など、交通困難者が最低限度の生活を営むためのモビリティーをどのように確保していくかについて、国は方針を表明し、法律によって根拠を与える必要があります。また、これらの議論の中で、STサービスをどう位置付けていくかについても考えていく必要があります。
 位置付けと関連して、最低限度のラインをどこに設定するのか、費用はどこが負担するのかといったことも示していく必要があります。
 また、STサービスだけではなく、市民活動全般について、国としてどう進めていくかということも示していく必要があります。支援するのであれば、ボランティアをやりやすくするためのボランティア休暇制度の創設や、寄付金税制を整備し、個人や法人が、容易に非営利団体への寄付が損失金算入できるようにするなどの支援策が求められます。



C研究部門

 研究部門に求められることは多岐に渡りますが、最も重要な役割は、国民全体の利益にかなった公正な案の提示です。
 交通困難者のモビリティー確保の問題でも、当事者やSTサービス実施団体、タクシー業界などは、国が全面的に財政支出すベきと主張しますが、少子高齢化が進む情勢の下で世代間の公平性が保たれるのかといった点や、モビリティー確保よりも優先すべき項目がないかといった点、国民負担の水準が適当であるかなど、検討すべき項目は多岐に渡ります。また、各部門の利害が絡んでくることもあり答えを出すのは容易ではありませんが、各部門が検討する場合よりも、バイアスがかかりにくいため、より国民全体の利益にかなった案を提示することが求められます。
 研究部門が注意すべき点は、理想を追い求めるあまり、現状から遊離した理想論を振りかざさぬようにすることです。そのため、ネットワークや個々の団体、当事者等の実態把握に務める必要があります。
 STサービスに関する研究結果については、主に国に対して答申することが求められます。都道府県や市町村は、国の方針に基づいて事業を行うわけで、いわば国が主流であり、そこが動かないことには、下流は身動きが取れないためです。



D個々の団体と市町村

 STサービスに限らず、行政側が提供するサービスについては、国が最低基準を決めていますが、それに上乗せする部分については、市町村に裁量があります。また、実際に事業を行うのは市町村であり、STサービスをどう捉えるかについても、市町村の裁量です。
 市町村も個々の団体も、最前線で当事者と接する基本単位であり、その点で、話し合いや合意、協力の余地は大きいものと思われます。
 STサービス実施団体が国に対して要望を出す場合ですが、ネットワークを経由させる場合と、市町村を経由させる2つのルートがあります。ネットワーク経由の場合は、STサービス実施団体の総意といった形となり圧力団体のようになりますが、市町村経由の場合は、一旦市町村が反芻し、消化されたものが意見とされる形となります。そこには市町村の意向も含まれ、通った場合の注目度は高くなると思われます。その点で、市町村とはパートナーシップを結ぶことが、双方の利益につながると考えられます。


E国と都道府県、市町村

 STサービスに関しては、国は方針を示し、根拠として法律を制定し、サービスの最低限度のラインを決定することが求められています。
 都道府県に求められる役割は、市町村と国を仲介することです。市町村は、市民と直に接し、市民の要望に応えることが求められますが、法の執行機関であり、法的な根拠のない事業を行うことは出来ないために国に働きかけることが求められます。それを受けて国が方針を示し、法律を制定して根拠を与えなければなりません。その際に、国全体の最低限のサービス提供基準を決めて、水準を下回る市町村がないようにすると共に、過疎なサービスとなる市町村は、上乗せ分については各市町村の負担とし、国民全体の利益を平準化する役割も求められます。


 第三項では、STサービスの発展のために必要なことについて、実施主体ごとに分類し、各実施主体の関係について述ベましたが、STサービスの位置付けや財源の問題などは、最も基本的な項目ながら、究極の項目でもあり、関係する主体は多岐に渡っています。こういった項目について意見できるだけの結論を出すには、ネットワークではいささか力不足の感が否めません。
 個々の団体−市町村、ネットワーク−都道府県と対にしていくと、国と対になるところがないわけで、STサービスネットワークの全国組織が必要であると思われます。