W.関西STS連絡会の設立と概要


1.関西STS連絡会設立までの経緯

 1996年頃から関西地域でも移動・移送の支援を行うグループが少しずつ活動を始めていたが、まだまだ活動の中身、運営・資金も、情報も連絡関係はほとんどない状態でした。1998年から支援グループや個人、STサービス団体に呼びかけて2ヵ月に1回程度の勉強会・交流会を行い、主都圏との取り組みの違いや活動内容について学習する中で、ネットワークの必要性、法律、運営、資金等に関して、12回の交流会がもたれています。そうした積み上げの結果、関西でもネットワークを設立することになったのです。ネットワークの第一歩として、情報交換や交流を目的にSTサービスのセミナーを開催をすることなどが話し合われてきました。


2.「移動支援サービス活動」の普及と情報発信活動

 1999年3月、第1回「移動支援サービス活動」セミナーを開催しました。このセミナーは、STサービスの認知や普及についてのアピール、知識の向上などが目的でした。
 東京都立大学大学院工学研究科の秋山哲男助教授によるヨーロッパや東京の事例紹介、近畿大学理工学部土木工学科都市交通工学研究室の三星昭宏教授によるSTサービスのあり方についての講演、STサービス利用者による講演などか行われました。
 2000年3月には、第2回のセミナーを開催し、東京ボランティア・市民活動センターの安藤雄太氏による利用者の現状と支援団体の連携についての講演、日本財団の青柳光昌氏によるSTサービスに対する日本財団の考え方や支援方法等についての講演が行われました。第2回は、前回の学術的な内容から、より実務的な内容とし、ネットワーク結成への機運を盛り上げました。
 2001年2月、第3回のセミナーを開催しました。近畿大学理工学部土木工学科都市交通工学研究室の三星昭宏教授による交通バリアフリー法についての講演、大阪市高齢福祉課長による大阪市の高齢福祉に関する考え方についての講演が行われ、前年に交通バリアフリー法や介護保険法といった、STサービスに関わりの深い法律が施行されたことから、それに関連したセミナーです。
 これらのセミナーの間、勉強会は新たなメンバーを加えながら、関西STS連絡会設立のための準備会として、セミナーの主催と話し合いを続け、関西STS連絡会の設立を準備していきました。


3.関西STS連絡会創立

 2001年11月、第4回のセミナーを開催し、独立行政法人運輸政策研究機構の和平好弘氏により、国土交通省の考えやSTサービスの将来などについての講演、日本財団の青柳氏を交えてのシンポジウムが開催しました。
 セミナーの後、関西STS連絡会の設立総会を開催し、総会では連絡会設立の趣意文(表3)の読み上げと承認が行われ、晴れて関西STS連絡会が正式に発足しました。

 表3 関西STS連絡会設立趣意文
 私達は、車いすを利用している人や歩行困難な障害者・高齢者が車いすのままで乗ることが出来るリフト付き福祉車両等を運行している「移動・送迎支援サービス」実施団体と支援協力者、利用者の関係者です。
 高齢化が進むわが国において、障害者及び高齢者の外出制約者の方々は、人口に占める割合が急速に拡大し、「移動・送迎支援サービス」に関するニーズも増えてきています。
 2000年11月、交通バリアフリー法〈高齢者・障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律〉が施行され、その付帯決議の中ではSTSの導入に努めることが盛り込まれており、交通機関においてすべての人が安心して快適に移動できる環境づくりとして、交通バリアフリー化が取り組まれています。
 現在、この「移動」の問題を考えたとき、問題を克服する手段として、パブリック(公共交通機関)、スペシャル(民間サービス)、パーソナル(個人)と大別すれば三つの手段をつかうことが有効とされています。
 移動が困難な人々の支援を車いすごと乗れる車両で行う「移動・送迎支援サービス」は、ボランティアやNPO法人等の市民活動団体により、各地で実施されています。しかし、その位置付けはまだ弱いものにとどまっています。その一方で最近では自治体や企業による活動も積極的な取り組みが始まっていることから、ボランティアやNPO法人の役割は、今大きく問われています。
 私達は、移動・送迎支援活動を行っているグループや団体、個人の情報交換・研修・調査・研究等の交流活動を行い、支援活動団体の力を付けていき、障害者や高齢者が自由に移動して生活を豊かにするそんな社会を実現するために、次のことを推進し活動していきたいと考えております。


4.活動内容

 関西STS連絡会が活動を進めていくのは、以下の5つの柱です。


@STサービスの広域化とネットワークの確立

 現在、STサービスには、
 1.利用者の居住地域
  @行政からの補助
  ASTサービス実施団体の偏り
 2.利用可能地域
  @STサービス実施団体の方針
  A依頼先の状況
 以上の点においてサービス提供状況に地域間格差があります。
 1−@に関してですが、都道府県や市町村から何らかの補助を受けている場合、利用者はその自治体の住民であることを求められる場合があります。
 1−Aに関してですが、利用希望者に対するサービス提供者の割合が、地域によって大きく異なり、頻繁に利用できる人と、団体が無いため全く利用できない人が存在します。
 2−@に関してですが、利用者が移送依頼する団体の方針によって、無制限、近隣都道府県内、同一都道府県内、近隣市町村内、距離制限、時間制限等様々であり、利用可能地域が大きく異なります。
 2−Aに関してですが、途中の飛行機利用等、出発地のSTサービス実施団体が一部の移送を行い、残りを目的地のSTサービス実施団体に移送依頼する場合、依頼先の受け入れ体制には大きな格差があり、受け入れ態勢が整った地域へは容易に足を運べるが、逆に受け入れ態勢が無い地域へ行くことには困難が伴います。
 しかしながら、既存の公共交通機関を利用できない交通制約者の移動が自由にできないことや地域によって格差があることは決して好ましい状況とは言えず、改善していくべき問題です。
 そこで関西地域内全域を移動可能地域にすることにすること、及び他地域への送迎依頼、他地域からの送迎依頼の受け入れを目指して、関西におけるSTサービス実施団体のネットワークを確立し、STサービスの広域化を目指します。
 また、国の動きや各地のSTサービスの動向などといった情報を共有するなど、ネットワークを通じた団体間の相互協力も行います。


A「移動・送迎支援サービス」実施団体の基盤整備

 STサービス実施団体は、そのほとんどが交通制約者の福祉の増進を目的としたボランティア団体やNPOです。そのため利用料金をぎりぎりまで低額に抑えていて、ほとんどの団体の財政基盤は弱いのが現状です。また、活動先行型で、団体の運営に関してのノウハウが不足している団体も多いのが現状です。
 しかしながら、活動を安定化し、さらに発展させていくためには、しっかりとした運営基盤が必要です。
 そこで、NPO法の活用など組織としての基盤整理や、活動資金確保のための制度や手法などについて、研修会等を行い、各団体が持つ情報やノウハウの交換、講師役を決めての勉強会、議論による新しい手法の考案などを行います。


B公共交通機関の改善提案

 交通制約者のモビリティー確保の問題は、STサービスだけで解決できる問題ではありません。公共交通機関を改善することにより、
1.公共交通機関を利用した移動が可能な人の範囲を拡大すること
2.STサービスと公共交通機関が連携してシームレス(継ぎ目なし)な移動を可能にすること
 以上の2点が重要です。
 前者に関しては、
 @ 自宅から公共交通機関のターミナル(駅、空港、バス停など)までの道
 A 公共交通機関の乗車ターミナル
 B 公共交通機関内部
 C 公共交通機関の下車ターミナル
 D ターミナルから目的地までの道
 E 目的地内部
 以上のような箇所にバリアがあり、移動を妨げています。
 こうしたことから、障害者・高齢者の社会参加や自由な移動を容易とするための制度や手段の整備についての提案活動を行います。


C運転者研修・ボランティア活動研修会の開催

 利用者にとって安全でかつ快適なサービスを提供するため、運転技術やリフトの操作法、利用者との接し方、車いす等の介助方法などについて、初心者に対して学び実践する場を開催することや、より上のレベルを目指しての研修会を開催します。


D移動・送迎支援サービス」の社会的・公的な制度の獲得

 現在、ボランティア団体やNPOなどが行っているSTサービスは、ほぼ全てが自家用車(白いナンバープレート)ですが、金額の多少を問わず、利用者から料金を徴収しているという点で、道路運送法(表4)等に抵触しており、いわゆる「白タク」行為として厳密には違法とされます。しかし、STサービスは、交通制約者のための重要な交通手段であり、また、営利を目的としたものでもないため、行政当局は黙認しているというのが現状であり、非常に不安定な地位にあります。
 こうした現状から、連絡会では「営利を目的としない、地域に根ざした福祉サービス」としてのSTサービスが、法的に認知されることを目指し、道路運送関連法規や社会福祉関連法規などについての法整備を求める活動を行います。

 表4 道路運送法
 (有償運送の禁止及び賃貸の制限)
第80条
 自家用自動車は、有償で運送の用に供してはならない。但し、災害のため緊急を要するとき、又は公共の福祉を確保するためやむを得ない場合であって運輸大臣の許可を受けたときは、この限りでない。
 1 自家用自動車は、運輸大臣の許可を受けなければ、有償で貸し渡してはならない。
 3 前條第二項の規定は、前項の許可について準用する。


5.関西地域の広いネットワークをめざして

 大阪はいわずと知れた日本第2の都市であり、西日本の中心地であるにもかかわらず、STサービス事業については、東京と比較して非常に遅れており、また、同じ関西地域内でも、京都府や兵庫県と比較して遅れが目立ちます。
 しかしながら、全国から大阪を訪れる交通制約者の長距離移動需要への対応や、関西地域内の中距離移動需要などへの対応といった面のほかに、西日本の中心として交通制約者のモビリティー確保についても、中心的・先進的役割を期待されていることを自覚し、関西STS連絡会はその意味で発展しなければいけない立場であり、積極的な活動が期待されています。
 連絡会に求められることは、オープンで公正な組織運営と、活動を伴う意見の発信です。前者については、利用者の選択肢を増やすという観点から、より多くの団体の加盟を促すための最低要件です。後者については、発信した意見の根拠を示すためと、それによってどうなるかといったことを具体化してわかりやすくするためです。
 特に根拠ですが、話し合いの結論としての意見は理想的ではあるが、現実的ではないといった状況に陥りやすいため、実際にやって見せることで意見の正当・妥当性を保障するねらいがあります。この方針を活動方針予定などに適用し、広域化やネットワーク化を謳うだけでなく、規模は小さくても実現させることが必要です。