
■ 福祉移送特区のNPO有償運送事業検証セミナー報告
■ 日時:2004年2月1日(日)午前10時半〜午後4時半
■ 会場:大阪市立総合障害学習センター
■ 主催:関西STS連絡会/移動サービス市民活動全国ネットワーク
《第1部》報告「関西地域の移動送迎支援活動と関西STS連絡会の役割」
尼崎市、阪南市、神戸市で移動送迎支援活動を行っている団体及び、京都府社会福祉協議会から、各団体の活動内容及び各地域での移動送迎支援活動を取巻く状況について報告してもらった。また、関西STS連絡会事務局の柿久保氏から、調査活動と人材育成を行うNPOをたちあげたいとの抱負が語られた。
【尼崎市:アップストリーム障がい者支援センター】
社会福祉協議会で移送サービスがされているが、利用しやすい値段設定であるにも関わらず利用が少ない。また、尼崎市では1,100万円という多大な費用をかけてリフト車の運行を市バスの外郭団体に委託しているが、総運行回数は1,447回程度である。一方、NPO団体では、もっと少ない費用で多くの人を運んでいる。ある団体では、のべ利用者数3,804人、総費用218万円である。
【阪南市:NPO法人くらしのたすけあい「えぷろんの会」】
介護保険の導入により、白ナンバーの規制が強くなった。昨年7月には大阪府の介護保険からの指導により、運転履歴と適性検査結果を提出している。支援費については、阪南市からは「車両を用いた送迎は行っていけない」と言われたが、重度障害者を福祉バスに乗せるのは無理であり、実際には市から黙認の形をとって送迎を行っている。阪南市と特区に関して折衝したが、まだ具体的に動いていない。
【京都府:京都府社会福祉協議会】
福祉送迎には、介護保険にかかる部分と、そうでない部分がある。それに支援費は現在比較的緩やかに使えているが、介護保険の枠内に入ると規制が厳しくなるだろう。交通サービスの所管は運輸局であり、地方自治体の中できっちりと把握しているところはほとんどない。縦割り行政のため、どこが責任を持ってやっていくのかが不明確である。
京都府は田舎が多い。ほとんどの市町村の社協では介護予防・地域支えあい事業の委託を受けて、移送サービスを運行させている。行政サービスであるので、通院等に目的が限定され、社会参加は少ない。ドライバーは雇用されている人より、ボランティア・ドライバーが多い。ボランティアの力が重要だが、安定した供給を行うことができない。田舎の2,000、3,000の人口で、運転を担う人が少ない。過疎の地域は都市と切り離して考えないといけない。市場原理が働かない。
【神戸市:移動サービスネットワークこうべ】
移動サービスネットワークこうべは、移送サービスを実施している5団体をまとめるコーディネイト事業をやっているが、それぞれの団体でスタンスが異なっており、とても難しい事業である。
NPOのNPOであり、運営がとても難しい。全国でも初めての取り組みで、他であまり行われていない。研修事業を今まで9回行っている。課題としては、「ガイドライン」が出された後の体制をどのようにつくるのかということ。次に教育制度、また、ネットワークのセンター化を図りたい。いろんなところにセンターを作り、人と物の共有を図っていきたい。資金調達も大きな課題である。現在はコーディネイト料のみで運営しているが、今後は助成金や委託金を受けて事業を行っていきたい。移送サービスを行っている団体はそれぞれが独立独歩でやってきており、協調性はあまりない。人を支援するように、団体を助けてほしいと思う。
【関西STS連絡会事務局 柿久保氏】
STS(スペシャル・トランスポート・サービス)の研究者は、まだまだ少ない。STSのことを、モビリティや地域のまちづくりとまとめて研究していってほしい。今度、移動送迎サービスを行っている団体に対するアンケート調査を行う。近畿圏内の概況をおさえたいと思う。今後は調査活動と人材育成が重要だと思っている。調査と人材育成を担うNPOを立ち上げたい。
《第2部》シンポジウム「全国における福祉移送特区の取り組み」
@問題提起:「移動送迎サービスの現状と課題」三星昭宏氏(近畿大学理工学部社会環境工学科・教授)
移送サービスを、これから交通サービスと言っていきたい。
タクシーと連携しながら発展していかないといけない。バス・タクシーに対する規制緩和が行われ、赤字路線が大幅に撤退した。コミュニティバスは、一般の公共交通が不便な部分で運行を行い、それに対して税金投入を認めてもらっている。大阪市なら赤バスが走っている。乗用車も今後は相乗りが増えていくだろう。かつては違法行為だったとしても、認められていくと思う。
1つの交通手段だけでなく、重層的な交通システムの構築が必要である。福祉交通サービスしかない、タクシーしかない、バスしかない、というのはよくない。2つ以上の交通システムを選ぶことができるような選択性のある交通サービスを考えていきたい。
需要のことであるが、潜在需要、新しい需要がますます広がっている。高齢者・障害者という言い方は必ずしも適当ではない。これは医療・福祉側からの分類である。私達が行った大阪の羽曳野市の調査では、25%を超す人が何らかの交通困難を抱えていることがわかった。障害者の数の何倍もの交通困難者がいるということである。直接苦しんでいる人ばかりではないが、多くの人は何かと苦しみながら、交通・移動を行っている。
Aパネルディスカッション:「福祉移送特区における実践報告」
東京都立大の秋山哲男教授をコーディネーターに迎え、枚方市、岡山県、上勝町、砥用町、大和市における、福祉移送特区の実施状況とその課題についての報告があった。特区の状況を踏まえ、法律をどうするのか、自治体、市民は何をするべきか、といった点について議論が行われた。
●特区の特徴(東京都立大学大学院都市科学研究科 秋山教授)
1.縦割り行政の様々な規制を緩和することが必要である。
2.今までのお目こぼしのような形でされていたNPO運送を正式に認めるということである。今まで道路運送法80条では、福祉と災害の際に普通車での営業のみを認めるとなっており、白タク行為を禁止していた。道路運送法ではNPO等による運行を全く考えていない。
3.車両を福祉車両に限定しているという点である。これは、国交省の見解によるものである。スウェーデンでは、STSの9割を普通車両で行っている。
●全県レベルでの取り組み
【岡山県:岡山県保健福祉部障害福祉課 坂井主査】
岡山県には78市町村がある。特区の申請は県全域で行い、県が主導的に動かしている。この特区をきっかけとして、全く新しく活動を始めた法人もある。年度内に全部で21法人に増える予定である。
今まで道路運送法の80条は、認識が高い市町村でない限り、申請することはできなかった。特区では、法人さえやる気を持てば、免許を取得できるようになる。行政も財政が非常に厳しくなっており、福祉施設にある福祉車両やタクシー等、資源を有効に活用したい。特区の申請には、ボランティア輸送と合わせて、利用が少ない時間帯に運賃を下げて利用を増やすことを目的としたタクシー料金の自由化の案も出したが、却下された。ボランティア輸送だけでは無理だと思う。タクシーと組み合わせる必要がある。今、岡山県ではタクシー業界からの風当たりが非常に強く、調整が大きな課題である。
●人口低密度の地域での取り組み
【徳島県上勝町:上勝町町づくり推進課 星場課長】
上勝町は2,200人の小さな町で、人口密度は低い。500人のボランティアが登録しており、これは全国でもトップレベルの組織率だと思う。上勝町は交通機関の空白地域である。路線バスも運行しているが、スクールバスを一般の人に開放したり、80条のバスを走らせたりいろいろしていた。問題はバスから降りて、家までの区間をどうするのかということである。
特区の目的は2つあり、1つはデマンド運行のような形で、住民の方々の足を確保したいというもの、2つ目は白タク行為で住民に罪人をつくりたくない、ということである。現在26台の車両、21人の運転手が登録している。登録車には、セダン車だけでなく、軽自動車や軽トラックもある。運行は予約制で、土日の利用も可能、緊急時の利用も可能である。3ヶ月で35万円の収入、のべ330人の利用がある。
【熊本県砥用町:砥用町社会福祉協議会 遠山事務局長】
人口7,800人、高齢化率40%の町である。山林と河川の間を縫うように民家が立地している。町には身体障害者が500人、知的障害者が60名いる。
福祉移送は社会福祉協議会が主体となって事業を行っている。協同募金で2000年にリフト車を1台、2002年に24時間テレビから1台もらった。10人のドライバーが登録しているが、ほとんど6人で対応している。先日、タクシー業界からこれ以上のサービスを差しひかえてほしいと言われた。今後は最低必要な資金の確保が課題である。
●交通が便利な都市部での取り組み
【大阪府枚方市:枚方市福祉事務所障害福祉室 政村課長】
人口40万8千人の住宅都市である。私鉄の駅が6駅、JRの駅が1駅、路線バス、コミュニティバスが走っており、それほど交通が不便な地域ではない。
利用者は24,000人を想定したい。利用目的は通院等が多く、利用時間帯が重なるという問題がある。現在、3つの社会福祉法人が申請している。第2陣として、2つのNPOが運行を始める予定である。福祉車両の購入に関しては、宝くじの助成金を活用し、今年度に限り助成を行った。
【神奈川県大和市:NPO法人ワーカーズ・コレクティブ ケアびーくる 河崎代表】
人口22万人、高齢化率14%である。面積27平方メートルという狭い範囲に私鉄の駅が8つもある。横浜や東京に通勤する人が住む住宅地である。市内には介護タクシーが1台もない。
活動をはじめてから5年たっている。主婦と退職した男性が中心となって活動をしており、年間5,000件のサービスを行っている。特区の中でNPOから行政に働きかけたのは、おそらく唯一だと思う。特区は移動制約者の問題を世間に知らせるきっかけになった。
道路運送法は運送だけの問題を扱っている。移送サービスは、新しい公共を作っていく取組である。道路運送法の中におさめきれない部分が多い。私たちはベッド・ツー・ベッドの介助も行っている。私達の活動から運送だけ取り出すのは無理である。今度出される「ガイドライン」で争点になるのは、協議会である。料金も車両も協議会で審査されてOKにならないといけない。協議会では市民が決定権を持つメンバーになり、行政と対等な立場で協議する必要がある。最後に許認可権を持っている陸運局には、オブザーバーになってもらった。
福祉車両だけでなく、普通車での運行も認めてほしい。車両にニーズを合わせることはできない。送迎サービスは通院の利用が多く、午前中の利用に集中する。全部に対応するのはものすごい負担であり、現在ある資本をうまく活用したい。
●パネルディスカッションのまとめ(東京都立大学大学院都市科学研究科 秋山教授)
1.法律をどうするのか、という議題が出た。道路運送法でできる範囲には限界がある。移送サービスは、全く別の体系で作るべきではないか。
2.地方自治体が責任を持ってやっていくべきである。先日、厚生労働省のある課長から「福祉の中に交通は入っていない。交通サービスが整備されていないのが問題であり、それは福祉側の問題ではない」という認識を言われた。日本には交通の計画を作れるところが一つもない。計画に入れないと、課題としてあがらない。計画に書いてあれば、実施する時にバックボーンとなる。
3.自治体が何をするべきかという問題と同時に、市民は何をするべきなのかということがある。時間を提供するのか、お金を提供するのか。行政はどこまでするのかラインがはっきりしていない。ビジョンがあれば、お金がないということは理由にならない。(文責:関西STS連絡会)
東京交通新聞(2004.2.9)
『《大阪で移送サービスセミナー》行政の助成措置必要 利用者の選択肢増やせ』
STS連絡会(上田隆志代表)と移動サービス市民活動全国ネットワーク(市川笑子代表)が主催する「福祉移送特区NPO有償運送事業検証セミナー」が、北区の大阪市立総合生涯学習センターで開かれた。第1部では近畿圏のNPO、社会福祉協議会など5団体の移送サービス支援への取り組みを紹介。第2部は三星昭宏近畿大学教授が「移送サービスの課題」について問題提起。福祉移送特区の代表5人、秋山哲男東京都立大学教授を交えパネルディスカッションを行った。総論として、欧州先進国に比べ日本は交通弱者に対するサービスが立ち遅れていると指摘。行政面での助成措置、社会システムの構築が不可欠とした。
セミナーには近畿圏のNPO団体関係者ら150人が出席した。第2部のシンポジウム「福祉移送特区の取り組み」で基調講演した三星近畿大教授は、交通バリアフリー法、改正道路運送法、介護保険法の施行という移送部門に関連する法整備の流れを紹介。「これまで認知されなかった移送ボランティアが大きく発展する道が開かれてきた。タクシーと共用しながら交通弱者に対するサービスを担っていく時代に入ってきた。高齢社会の活性化という観点からもSTS(スペシャル・トランスポート・サービス)は大きな問題だ」と指摘。
課題として、@地域交通確保の観点からの道路運送法の再改正検討、A交通困難者全体としての取り組み、B福祉移送サービスとタクシー会社が連携した配車システムの確立――などを提案。
「交通計画の基本要件として、STS、バス・タクシーなど公共交通機関、自家用車等から利用者には2つ以上の選択肢が必要だ」と強調した。
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全国ガイドライン策定 実情に沿って
バネルディスカッションでは大阪府枚方市、岡山県、徳島県上勝町、熊本県砥用町、神奈川県大和市の「福祉移送特区」代表5人が利用状況、運行形態や運送対価、安全確保面などの現況を報告した。
コーディネーターを務めた秋山都立大教授は、各特区における移送サービスの態様を、@県レベルで送迎サービスに取り組む土壌のある岡山県、Aシンプルな移送サービスが育つ上勝町と砥用町、B公共交通機関が十分な枚方市と大和市――の3つに分類。▽都市部と地方の利用実態の差異、▽特区における道路運送法の拡大解釈の範囲、▽介護・移送をめぐる厚労省と国交省の見解の相違――などに触れた。
「全国ガイドライン策定」の関連では、普通車での送迎について「すべての需要に福祉車両で対応するには限界がある。マイカー等の社会資源を使うべき」などの意見が出た。「特区」の安全確保面では、2種免許の早期取得指導などはボランティア運転者の実情と乖離(かいり)した議論になるなどの指摘もあった。
第1部ではNPOによる移送サービスが年間100万円を超える赤字で運営されている実態なども浮かび上がった。
=対行政アンケート= 社協、タクシー会社へ委託多く
関西STS連絡会は1日、近畿管内2府4県の自治体を対象に実施した「移送サービスに関する行政アンケート調査」の結果をまとめた。調査項目は、@移動制約者に対する交通施策、ANPO等との共同体制のあり方――などをきいたもの。
アンケートは323市町村の「障害福祉」「高齢福祉」「企画」の3部署を対象に969部配布し、315部(32・4%)を回収。内訳は障害福祉112部(34・6%)、高齢福祉129部(39・8%)、企画74部(22・8%)。
調査結果では「移送サービス」は、社会福祉協議会やタクシー会社に業務委託しているケースが多く、高齢福祉部門で52・7%、障害福祉部門で21・7%がなんらかの交通施策を実施していた。京都・綾部市では唯一NPO法人に運行を委託していた。
「タクシー運賃の助成」は、初乗り運賃負担など障害福祉部門が74%と高く、高齢福祉部門は33%にとどまっている。
NPOと自治体との共同体制に関しては「関係者間の協議の場を設ける」「NPO法人設立を支援する」などの基本姿勢を示しているものの、具体的な共同のあり方を考えている自治体はほとんどなかった。福祉有償事業の「全国ガイドライン」策定など国の動きを見極めてから対応する自治体が大半とみられる。
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