《射程》寄り添った支援を ―
2016.6.29 熊本日日新聞―


 熊本地震からやがて
2ヵ月半。避難を続ける人々が何より待ち望むのは、応急仮設住宅だろう。ところが、県が益城町郊外の工業団地に設ける「テクノ仮設団地」で、入居辞退が約100世帯に上っている。異常事態だ。
 町役場まで約
7キロ。近くに商業施設や病院、バス路線もない。「生活の足がないので、テクノ団地には住めない」。辞退した高齢女性は嘆く。
 県内最多の
516戸に対して、1次募集の応募件数はわずか94世帯。別の仮設団地の抽選に漏れた人をテクノ団地に回した結果、辞退が3桁に及んだ。建設を急いだとはいえ、現状では被災者のニーズにかけ離れていると言わざるを得ない。
 仮設住宅をめぐっては
21年前の阪神大震災以降、その課題が再三指摘されてきた。最も危惧されるのは孤立死だ。避難所に比べてプライバシーは保障されるが、閉ざされた扉が孤立を生む。東日本大震災では、仮設住宅などで体調を悪化させて亡くなる震災関連死が、2015年9月末時点で3400人を超える。
 福島大の天野和彦・特任准教授は、「震災関連死は人権の問題。ため息を一人でつかせない、そんな交流の場がいる」と訴え続けている。従来の集落での近所付き合いを壊さないことも重要で、徳野貞雄・熊本大名誉教授は「最も大切なことは集落機能を維持する視点を持つこと」と指摘し、共同体の重視が「将来の地域再生につながる」と本紙インタビューで強調している。
 益城町は仮設住宅の暮らしを支えるため、専任相談員による「地域支え合いセンター」を設ける。町中心部と結ぶバス運行も検討されている。テクノ団地には大手流通のイオンが仮設店舗を出店するという。県の「くまもと復旧・復興有識者会議」が最終提言の先頭に掲げる「迅速で住民に寄り添った支援」が今、まさに求められている。(小多崇)