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医者とうまくつきあう方法
−かしこい患者になるために
辻本好子(ささえあい医療人権センターCOML)
医療をめぐる様々な不安、不満
ささえあい医療人権センターCOMLは1990年にスタートしたNPO(市民団体)です。私は医者でも弁護士でもありません。何の専門性も持っていない一人の市民です。医療を受けるときはみなさんと同じ患者側の立場です。そういう市民の立場からCOMLを大阪で立ち上げました。
まずCOMLの活動ですが、日常的には電話相談です。平日は9時から17時まで、土曜日は9時から12時まで電話相談に応対しています。いろんな人たちからの相談が届きます。例えば、今、医療事故が世間を騒がせています。「うちのおばあちゃんの打ってもらった点滴は、どうも違う人の点滴ではないかと思うのだけれども」というような相談があります。それから医療費がどんどん値上がりしています。その一方で景気は低迷したままです。そのような中でお金を支払っているのに、安心出来ない、納得出来ないという不服、不満がたくさん届いています。今はいろんなことをやっていますが、11年前には電話相談だけをやりたくて始めました。今も活動の中心は電話相談です。
数年前まで「ポックリ寺巡り」がはやりました。みなさんはお聞きになったことがあると思います。これは奈良県にあるお寺です。このお寺にお参りすると、ポックリ死ねると噂が広まって、たくさんの参拝者が集まりました。しかし最近は名前も聞きません。それはそこの住職が数年前に脳梗塞を起こして寝たきりになったからです。どうやらご利益はないらしいとわかって、はやらなくなったのかもしれません。
最近注目されているのは「PPK」です。ピンピンコロリ、ピンピン働いてコロッと死ぬ。それが全国で一番なのは長野県です。昔、長野県と言うと胃ガン、高血圧の人が多かった県ですが、今はPPK
一番の県です。医療費が全国のなかで低いです。そして長寿です。一番長生きの県は医療にかからない方が長生きしているという感じがします。長野県の人々は働くときは畑仕事などをして元気に働き、コロッと死ぬのが最大の希望だそうです。
医者は完璧ではありません
みなさんから「よい医者に出会うにはどうすればいいのか」という質問をよくうけます。それを考えたいと思います。
アメリカは医療の分野では、日本の20年から30年先を進んでいる国です。今、日本はガンが死亡率_bPの病気です。ところがアメリカではガンで死ぬ人がピーク時より少しずつ減ってきています。
その理由ですが、3つの要因があると思われます。
一つは、生活習慣の見直し、とくに食生活を見直して野菜をたくさん食べるようになったことです。肉食がぐんと減っているのだそうです。
二つは、患者会などの患者どうしのささえ合うグループが増えたことです。
三つは、いろんな医療が出てきたことです。西洋医学だけではなく、鍼灸、漢方薬、いろんな治療が増えて患者さんが選べる医療になりました。
これ一つをとっても、医者にたよることだけがいいことではないということも教えられます。
もちろん医療は重要な社会資源です。限界性や完璧ではないということを知っていく必要もありますが、少しでも今の状態が楽になるのなら、ぜひ利用することです。
では良い医者とはどういう人なのか? たぶん答えは出ないと思います。一人ひとりがこの人がいいという好き嫌いがあるのも当然です。医者と患者の関係は人間関係ですから相性の問題が非常に大きい。例えば、ぶっきらぼうでも腕はたしかな医者がいいのか。ちょっとあの先生は注射がへただし腕は誉めるほどではないが、親身になって話を聞いてくれる。2人の医者でどちらがいいのか?どちらがいいとは決められないと思います。ただ私たちが11年間、電話相談してきて感じるのは、医者が治す病気というのは、ほんのわずかしかありません。30%ぐらいしか治せません。後の70%の病気は治せないし、治らないのです。今より悪くならない努力をすることはできても、完全に糖尿病、高血圧、心臓病を治す方法はどこにもありません。ということは死ぬときには何らかの病気を持って死にます。だからその病気ができるだけ悪さをしないように、日常の中で手助けをしてくれる医者との関係を見つけるのが大切なのです。そうすると長いつきあいになります。だからできるだけ相性の良い、本音で話のできる医者を見つけることが大切です。
かしこい患者になるための努力目標
11年前に私は一人でこの活動を立ち上げました。最初は「3ヵ月でつぶれるからやめとき」と言われました。一生懸命やってきたら11年になりました。はじめたときに「かしこい患者になりましょう」を合言葉にしました。
COMLを立ち上げるときにいろんな医者に相談しました。そのとき、あまり文句ばかり言う患者というのはつき合いにくいけど、「いい患者のイメージはある」という話を聞きました。
医者は1日にたくさんの患者さんと朝から向き合って話をしています。診療所で50人から60人、大病院だと100人になります。患者さんはいい話を持ってくるわけではありません。何か不安や不満を持ってきます。楽しいわけではありません。それでだんだん疲れてきます。緊張もなくなってきます。しかしある種の患者さんが来ると、おもわず気持ちが引き締まり椅子を座り直すそうです。どんな患者かというと、ふた通りあるそうです。
ひとつは、医者のどんな言葉にかみついてくるかわからない人。ちょっと気をつけようと思う患者さん。
もうひとつは、病気を自分の持ち物だとわかっている人。自分の生活の中で、自分も病気を良くしていく努力をしようと考えている人です。こういう人が来ると、医者は自分のもっている医療の力を精一杯提供したいと思って、思わず座り直すのだそうです。これが「かしこい患者さん」だと思います。
そこでかしこい患者になるための5つの努力目標があります。
一つ目は、病気を自分の持ち物として自覚する。
二つ目は、自分がどういう治療を受けたいかを考える。
三つ目は、自分の考えを言葉で医者に伝える。
四つ目は、医者とうまくつきあう方法(コミュニケーション)を身につける。
五つ目は、一人で悩まないでください。相談出来る人を探してください。これが一番大切です。
医者の立場から見たかしこい患者は次のような人です。
ひとつは、適切に痛みを伝えられる人です。例えば、胃が痛いとき、どのように痛いのか、チクチク痛いのか、差し込むように痛いのか。いつからか。食後か、食前か。こういう自覚症状をきちんと言ってくれる人です。
もうひとつは、自分が知りたいことをちゃんと質問出来る人です。
あとは「ありがとうございます」「おかげさまで」「助かりました」の一言です。
逆に、ムッとする患者さんもいます。診察室に入ってきていきなり「先生、何でもいいから効く薬だしてよ」と言う人。それから他の医者の悪口を延々と言う人。「他のところに行っても俺の悪口をこういう風に言うんだろうな」と思って聞いているそうです。そしていろんなことを質問しておいて、最後に「先生は専門外だからわからないね」と言う人。なんだか試されたような気がして、こういう人はムッと来る患者さんだそうです。
医者も一人の人間です。ただ患者とは立場と役割が少し違うだけです。
『医者にかかる10箇条』
医者とうまくつきあう方法をまとめたのが『医者にかかる10箇条』です。
医者にかかるとき患者から医者に症状を訴えます。医者は診察や検査をして治療方法を決めます。そのときにあなたはこういう病気ですよと説明を受けます。それを患者側はしっかりと聞いて、理解します。理解したうえで納得することが必要です。納得するためには自分が不安や疑問に思うことを質問します。それに対し医者からもう一度説明があって納得することができます。納得できれば気持ちも少し変わります。
でももう一つ私たちが努力しなければならないことがあります。どうするかを自分で選んで決めることです。選ぶということは、治療方法は一つではありません。いろんな治療方法があります。一つずつの治療方法を聞き、それぞれの説明を受けて自発的に自分の受けたい治療方法を自分で選び決めることです。ここで初めて医者との同意にたどりつきます。これをインフォームド・コンセントと言います。そもそも医療は医者と患者の同意があるから犯罪にならないのです。患者さんがちゃんと説明を受けたあとに納得し、どうするか自分で決めることです。これを私たちはひきうけていかなければならないのです。患者さんがどういう医療をうけたいのかを自分で決めて、それを医者に言って、合意したうえで医療をすすめていくことなのです。そこでは患者の側に「理解し」「質問して納得し」「選択する」努力が求められます。そのために私たちは『医者にかかる10箇条』をつくりました。
『医者にかかる10箇条』は最初は厚生省の仕事でつくりました。4万5千冊つくり全国に配布しました。それは1年で終わったので、COMLで新『医者にかかる10箇条』をつくりました。現在、18万冊普及しています。半分くらいは医者たちが普及する手伝いをしています。患者さんがこの10箇条を努力してくれると医療はとてもやりやすいと言ってます。
10箇条を説明します。
一番目は、伝えたいことはメモして準備です。診察室に入ると緊張して何も聞けなかったりすることがよくあります。そこでどうしても聞きたいことはメモして持っていくことです。
二番目は、対話の始まりはあいさつからです。医者の中には患者の顔も見ないで話する人がいます。患者の側からあいさつしてもいいのではないか。それを無視する医者はほとんどいないと思います。
三番目は、先ほど述べたように、よりよい関係づくりはあなたにも責任があります。
四番目は、自覚症状と病歴はあなたしか知らないことです。それをちゃんと情報として伝えましょう。
五番目は、これからの見通しを聞きましょう。どこに向かっているのかわからないときは不安です。自分のめざすゴールはどこにあるか、そこに向かうための見通しを聞きましょう。
六番目は、薬を飲んでどうなったのか。その後の変化も伝える努力をしてください。
七番目は、大事なことはメモをとって確認しましょう。
八番目は、医者の話にわかったつもりにならないでください。納得できないときは何度でも質問しましょう。
九番目と十番目、これはとても大事なことなのですが、医療だから必ず病気を治せるわけではありません。医者も人間です。失敗するかもしれません。医療なんて高々そんなものだと思えたら、医者は神様でなくなってきます。医療にも不確実や限界があるのだとひきうけたうえで、どんな医療をうけたいのかを決めるのはあなた自身です。
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