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住み慣れた地域で暮らしていくために
介護保険を活用しましょう
森口芳樹(さつきつつじ会)
1.介護の社会化と言われていますが…
2000年4月から介護保険制度がスタートしました。この背景には、介護が必要な高齢者が急速に増え、介護する人の高齢化も進んでいること、また少子化・核家族化によって家族だけで介護することが難しくなっていることがあります。そこで、高齢者の介護を社会全体で支える制度として介護保険が創設されました。
これまで身寄りのない高齢者がからだが動かなくなったとき、すすめられるのは病院への入院でした。入院すればそこが人生のさいごになりかねません。介護保険という制度ができたことは大きな意義ですが、家族という受け皿がないとなかなか大変な面があります。単身の高齢者がこの制度を活用していくためには、制度のしくみを理解し様々な工夫をこらしていかなければなりません。
2.介護保険の活用のためのワンポイント
1.早いうちに利用しましょう。
介護保険を初めて利用するとわからないことがたくさんあります。からだの具合が悪くなり外出するのもしんどくなってから、一人で介護保険の手続きをやるのは大変です。早めの手続きが肝心です。例えば、要支援のときからヘルパー派遣を利用すれば、ヘルパーさんや事業者とも心やすくなり、長いつきあいにつながっていきます。かかりつけのお医者さんをつくるのと同じように、かかりつけのケアマネジャーやヘルパーさんをつくりましょう。
また元気なときでも要介護認定の申請をしたらいいです。自立という決定が出るかもしれませんが、自立であっても介護保険外のサービスは利用できます(ふれあい家事サービスやふれあいディサービスなど)。
2.介護保険は契約方式です。
以前は、家事援助のためにヘルパー派遣を利用したいと思ったときは、福祉事務所に相談に行って福祉事務所が決定を出し社会福祉協議会からヘルパー派遣をしてもらいました(これを措置方式といいます)。
ところが介護保険は、利用者がヘルパー派遣事業者を選んで、契約を結んでサービスを受けることに変わりました。ヘルパーさんと相性が合わないときに、別の事業者に簡単に変更できるというメリットはありますが、自分で契約を結ばなければならないという大変さがあります。
契約とは約束事です。当たり前のことですが、約束を変更するときは事前に連絡しなければなりません。勝手にすっぽかしたり、酔っぱらったりしているとヘルパーさんは仕事ができません。
もうひとつ知っておいてほしいのは、介護保険は「成功報酬」だということです。ヘルパーさんがアパートを訪問して利用者がいなければ、仕事はなくなり何の収入も得られません。仕事をやりに行ったのに、仕事ができずタダで帰るというのは情けないです。釜ヶ崎の労働者なら誰もが経験したことがある嫌なことです。
3.緊急通報システム付福祉電話はぜひ取り付けましょう。
介護保険を利用するとき、2つ事業者と契約を結ばなければなりません。ひとつはケアプラン(介護計画)をつくる居宅介護支援事業者(ケアマネージャー)で、もうひとつはサービスを提供する居宅サービス事業者です。この2つの事業者との間でサービスの変更やキャンセル、追加などがあったときには連絡を取り合わなければなりません。そのために電話は不可欠です。65歳以上の高齢者で非課税、一人世帯ならば誰でも取り付けられます。
4.介護サービス費用の1割は利用者の自己負担です。年金だけで生活している人にとっては、介護保険料とサービス費用の1割負担は大きな負担になります。生活保護受給者の場合にはその分は介護扶助で支給されます。生活保護での生活扶助(生活費)の目安は一人世帯で約8万円です。家賃や医療費をのぞいた生活費がこれを割り込んでいるなら、生活保護を受けるのが賢明です。
5.近所づきあいは大切に。
介護保険サービスは前月に作成されたケアプランに基づいてサービスが提供されます。月途中での変更はもちろん可能ですが、サービス事業者がヘルパーを確保できなければヘルパー派遣のサービスは受けられません。突発的な出来事があったときには対応できません。いざというとき頼りになるのは、同じアパートや近所の親しい人です。「情けは人の為ならず」です。近所づきあいを大切に、地域での助け合いをつくっていきましょう。
6.自分の思いや感情を言葉で伝える努力をしましょう。
いうまでもないことですが、サービスを利用して生活を作っていく主体は当事者(利用者)です。
ところが介護保険制度が複雑で、手続きはケアマネージャーに委任するため、ケアマネージャー主導ですすんでしまうこともあります。
どんな立派なケアマネージャー(専門家)であっても、その人の生活はその人にしかわかりません。どんなふうに生活を作っていきたいか、どんなサービスをどのように利用したいのかを自分で考え、自分の意見をきちんと言うようにしてください。
またヘルパーにも様々な人がいます。
あえてタイプ別にわければ、
お節介型
同情型
親切型
支援型です。
当事者(利用者)の生活リズムと合わなくて、トラブルが起こることがよくありません。そのようなとき、感情をぶつけるだけでは何も解決しません。自分の思いや感情を言葉にかえ、相手に伝える努力をしなければなりません。これは難しいことですが、努力するしかありません。
もちろん、言葉で自分の思いを伝えても、聞く耳を持たないケアマネやヘルパーさんもいるでしょう。そのような人とは早く手を切った方がいいです。
良いケアマネやヘルパーさんとは長いつきあいになります。ケンカやトラブルはつきものです。ケンカやトラブルがあっても信頼関係を深めるのか、それとも関係を壊してしまうのか−それは利用者の側にも問われます。
7.自分でできることは自分でしましょう。
先ほど言いましたように介護保険の利用は早めにした方が絶対いいのですが、何でもヘルパーさんに頼むのは良くないです。
介護保険がはじまって、これまで自分で頑張って買い物に行っていた人がヘルパーさんに頼むようになり、部屋にこもりがちになってしまったという事例もあります。部屋への引きこもりは生活の意欲を奪っていきます。できるだけ外出の機会を作っていくようにしましょう。
また、介護保険の利用者が生活保護受給者の場合、「利用者の自己負担は生活保護で支給されるので限度額いっぱいのサービスを利用しましょう」という事業者がいます。このような事業者は金儲け主義のおそれが十分あります。利用者のためにほんとうに必要なサービスを提供する事業者に変えた方がいいです。
8.サラ金借金があれば解決が必要です。
サラ金借金があるため住民登録をしなくても生活保護は受けられます。しかし、介護保険は住民登録を前提としているため、住民登録していないと介護保険は利用できません。ただ、生活保護受給者の場合には介護扶助の10割給付というやり方はあります。しかし、サラ金借金があると特別養護老人ホームへの入所は断られます。年金が借金の担保になっていると利用料が徴収できなくなるからです。サラ金問題の解決は難しくありません。二度と借金しないという意志が固まっていれば、整理のやり方はいくらでもあります(『サラ金対策のポイント』を参照してください)。
3.いろんな介護保険サービス
どんな介護保険サービスがあるのかを知っていきましょう。詳しくは大阪市発行の『介護保険』というパンフレットを見てください。
大きくは、居宅サービスと施設サービスにわかれます。
居宅サービスのいくつかを紹介します。
1.訪問介護(ホームヘルプサービス)
ヘルパーさんに来てもらっての身体介護と家事援助です。(さらにこのふたつが同程度の複合介護)。
さつきつつじ会の経験では、身体介護でニーズが高いのは病院への通院介助と銭湯入浴介助です。食事介助や排泄介助は単身では非常に限られます。
家事援助では買い物や洗濯のニーズが高いです。調理や掃除のニーズは低いです。単身の生活なので家で調理するよりも総菜を買ってくる人が多く、掃除も「自分の城」に入られるという意識なのかニーズは少ないです。
2.訪問看護
看護婦さんに来てもらっての病状観察、床ずれの処置などです。大きな病気をしたり、病状が不安定で病状管理が必要な人は利用することをすすめます。病状管理には大変役立ちます。訪問介護はいらないけれど看護婦さんには来てほしいという人もいます。
3.ディサービス
ディセンターや老人保健施設などに通っての入浴、食事、遊びなどです。部屋に引きこもりがちな人にとっては外出の機会になり大きな気分転換になります。週に一度でも通い出すと、生活のリズムを作ることに役立ちます。ただ、6時間以上その場所にいてプログラムをこなすのは苦手だという人もいます。もっと気軽に利用しやすいディサービスができたらいいのですが。
4.福祉用具の貸与・購入
車いすや介護ベッドのレンタルです。もしアパートに介護ベッドが入れられるスペース(210p×100p)があれば、おすすめです。足腰が悪くなると、立ったり座ったりの動作もきつくなります。ベッドがあるとずいぶん楽です。車いすも手動だけでなく電動の三輪車もレンタルできます。ただ、保管場所が問題ですが。
5.住宅改修
手すりの取り付けや段差解消です。一本の手すりがあるだけで部屋での生活に安心と安全を与えてくれます。年寄りの事故が多いのはトイレと風呂場です。トイレや風呂場での工夫は大事です。
6.施設での短期入所サービス(ショートスティ)
家族で介護している人に高いニーズがあります。独居の年寄りがさみしいときに気軽にお泊まりできるようなショートスティがあればいいのですが。
7.グループホーム(痴呆対応型共同生活介護)
痴呆性高齢者が共同生活(5人〜9人)しながら生活介護を行うものです。痴呆性高齢者がこれまで送ってきた普通の生活を、地域のなかで可能な限り維持していくことを支援するとりくみです。痴呆でなくても、単身の高齢者が介護度が要介護3以上に重くなれば、地域で暮らしていくためにはグループホームという形態が必要になります。
非常に注目すべきとりくみですが、現状はわずかしかありません。今後、自分たちで作っていくべきすみかです。
介護保険外のサービスでは、配食サービスは利用価値があります。栄養バランスのある食事を1日に1回でもとるのは健康のためになります。また、日常生活用具給付事業で電磁調理器の給付も受けられます。ガスだと消し忘れの事故とかもあるので助かります。
施設サービスは、特別養護老人ホームや老人保健施設、病院の介護病棟への入所です。特別養護老人ホームは大きく変わろうとしています。厚生労働省は平成14年度予算で、4人部屋主体の居住環境を抜本的に改善し、個室、ユニットケアを特徴とする「居住福祉型の介護施設」としての積極的な整備をうちだしています。
介護保険サービスを利用しようと思えば、まず居宅介護支援事業者を選んでください。生活保護受給者にはケアプランの自己作成は認められていないので、居宅介護支援事業者に依頼せざるをえません(これ自身、当事者の自己決定に反する不当な扱いです)。
どんな居宅介護支援事業者があるかは、『高齢者サービスのご案内 事業者ガイドブック』にのっています。すでに各家庭に配られていると思いますが、なければ区役所に行けばあります。家の近所で、評判の悪くないところを選べばいいです。
4.障害をもった生き方をみんなで考えよう
釜ヶ崎の日雇労働者の多くは自分の腕一本で生きてきました。人に頼らず独立精神が旺盛です。そういう労働者が脳卒中などで障害を持ち介護が必要となったとき、人の手助けなしには生きていけないという現実の受け容れが大変難しいです。ときには「ありがとうございます、ありがとうございます」と極端にへりくだった態度をとるかと思えば、「介護いらん、帰れ」と感情をぶつけることもあります。頭では人の世話にならなければ生きていけないということがわかっていても、感情ではなかなか越えられないのです。
障害の受容は非常に難しいテーマです。どのようにしたら受容がすすむかは、人それぞれによってちがいます。ただ、次のことは大事だと思います。
ひとつは、率直に話できる人がいることです。
心の不安や気持ちの揺れをてらいなく話できる相手がいれば、気持ちの面ではだいぶちがうと思います。
もうひとつは、釜ヶ崎−西成の地域で身寄りがなくても高齢者が障害をもって生きていけるとりくみが広がっていくことだと思います。高齢者自身による地域での助け合いが重要だと思います。
介護保険で介護が必要とされた高齢者は日本全国で280万人です。65歳以上の高齢者2200万人の13%にあたります。また痴呆性高齢者も156万人数えます。年をとってくると誰もが多かれ少なかれ障害をもちます。極道人生を歩んでも善行を積んでいても、要介護状態になったり痴呆になる人は一定の割合でいます。
釜ヶ崎の高齢者には「太く短く」という人生観を持つ人が多いです。釜ヶ崎で高齢障害者が生きていける社会資源があまりにも乏しかったということもありますが、高齢当事者の側でももう一度自分の人生観を見つめ直す必要があると思います。からだが動かなくなっても、波瀾万丈の人生を生きてきた方がその豊かな個性を発揮できるあり方が必ずあると思います。
介護の問題は高齢者自身の課題です。当事者の高齢者が声をあげなければ良い介護サービスは生まれません。地域での助け合いが広がり、個性豊かな生活づくりが進んでいくことを願います。
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