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第3章 考察
第1節 調査結果から見えてきたこと
兵庫県立福祉のまちづくり工学研究所 研究員 阪東美智子
(1)野宿生活経験のある生活保護受給者がおかれている状況について
1. 居宅保護になってからの日が浅い
さつきつつじ会・つきみそうの会と関わりの深い人たちを対象とした調査であったためか、ほとんどの人が、ボランティア団体など他者に勧められて居宅保護に移っていました。
居宅保護になってからの年月は、3年未満という短期の方が多数を占めています。
2. 大半が高齢男性の一人暮らし
現在、大阪市では、65歳以上の高齢者か、心身に障害があり就労が困難な者でないと、生活保護が適用されにくい状況があります。この調査においても、対象者の約6割が65歳以上です。また、「55歳〜64歳」の高齢者予備軍と呼べる層が約3割います。
これらの方々の多くは、大阪万博やバブル期に、単身で釜ヶ崎に職を求めに来た男性です。
野宿生活の後、現在は、あいりん地区内やその周辺で、一人暮らしを送っています。
3. 健康状態に不安を抱える人が多い
「高齢になったから」「仕事ができなくなったから」などの理由で居宅保護に至った方が多いのですが、この背景には、不況などによる雇用状況の厳しさだけではなく、野宿生活などによる本人の健康状態の悪化が考えられます。調査では、居宅保護前後に入院経験がある人が4割、通院している人が約7割いました。また、4人に1人以上が障害者手帳等を持っており、心身の虚弱な人が多数を占めていることが明らかになりました。
4. 就業意欲はあるものの…
虚弱高齢者が多いとはいうものの、約半数が仕事をしたいという希望を持っています。とはいえ、心身にケガや故障を負っている人が多く、ほとんどが病院通いを欠かせない状態であるため、若い頃と同じようには仕事はできません。だからと言って、資格をとったり勉強しようという意欲を示したのは10人強で、今さら新しいことを学んだり勉強するのは苦手なようです。
仕事の内容は、昔とった杵柄をもう一度とりたいという人も少なくありませんが、清掃や草刈などの軽作業を短時間行いたいという人が多いです。収入にはあまりこだわらず、生活のリズム作りや生活の張りのために仕事を希望しているように思われます。
5. 貧しい居住環境でも満足?
全員が民間アパートに住んでいます。その広さは、4.5畳または6畳一間が多いです。また、ほぼ全員が、専用の流し台がついた部屋に住んでいますが、トイレが共同の住宅や風呂がない住宅も少なくありません。6割以上の人が1〜2階の低層階に住んでいます。築年数の古い老朽住宅に住んでいる人が多いです。
一方、家賃の平均額は約40000円にのぼります。これは、大阪市の住宅扶助の上限額41800円をやや下回る額です。
しかし、古くて狭いが家賃の高い住宅に住んでいても、「不満足」と回答したのは3人に1人でした。逆に「満足」という回答もほぼ同数いました。
6. 希薄な人間関係
野宿生活から居宅保護になると、変化するのは住宅環境だけではなく、人間関係も変わります。野宿生活時代の人間関係を全く切ってしまう人もいます。アパート内の付き合いや、地区の住民との付き合いなど新しい人間関係も必要になってきます。
近隣関係については、同じアパートの人との付き合いがあるのは約半数です。近隣住民との付き合いはさらに少ないです。自治会や町内会に加入せず、地域の祭りやイベントに参加していない人が多いです。
友達の数も、「いない」と答えた人が2割以上いるなど、全般的に人間関係が希薄な人が多いようです。
7. 福祉を充分に活用できていない
生活保護は受けているものの、その他の福祉サービスについては、利用していない人がいます。福祉サービスの種類や内容について、「知っている人は何でも知っているが、知らない人は全く知らない」というように、情報の個人差が大きいように思われます。
また、本人と福祉をつなぐ役割を担うケースワーカーや民生委員とは、日頃から交流が少なく関係が薄いです。
(2)野宿生活経験のある生活保護受給者が生活をつくりあげていく過程における問題について
1. 適正な住居の獲得
野宿生活から居宅保護に移るにあたっては、まず住居の確保が必要です。しかし、敷金や保証人の問題など、住宅を借りるのは簡単なことではありません。まず、野宿状態で敷金をためられる人はいません。調査では、7割以上の人が行政の支給に頼っています。また、ボランティア団体などに借金した人も1割以上います。自分の貯蓄でまかなったと回答した人は1割いましたが、これは現在住んでいるアパートの敷金の調達方法について尋ねたもので、居宅保護中に貯蓄し転宅した人を含んでいます。初めてのアパートを貯蓄でまかなったのはわずかに4人で、3人が自彊館入所中、1人が入院中でした。これは、生活保護受給中でないと貯金できない実情を物語っていると言えます。保証人については、約2割が、保証人のいらないアパートを選んでいます。
住宅を決める条件は、この他に、買物・交通・通院の利便性、間取り・広さ、建物や部屋の美しさ、設備などが優先されていますが、間取り・広さや設備などの現状は必ずしも良いものが選択されているとは言えません。また、「ここしかなかったから」という理由で住宅を決めた人も13人いました。
健康で文化的な暮らしが営める良質な住宅の供給が少なく、またその情報が充分でないため、現状では多くの人が、適切な住宅に住むことができていません。
2. 生活づくりの準備と金銭管理
住むところが決まると、次に必要なのは、家財道具や日用品をそろえることです。限られた保護費をやりくりして、生活に必要な品物を買いそろえる必要があります。特に1ヶ月目は、生活のやりくりがわからない上に、買いそろえるものがたくさんあって大変です。
金銭管理については、苦労をしている人が少なくないようです。過去に釜ヶ崎で仕事をしていた経験から日払い式の賃金形態に慣れている人が多いためです。実際、居宅保護における困りごとの上位に、「金銭管理」「月々のお金のやりくり」「生活費が足りないことがあった」と記入している人がいます。また「生活保護費で充分生活できない」と答えた人が約1割います。逆に9割の人は、「ギャンブルに手を出さない」「お金は考えて使う」「無駄なお金は使わない」「1日1500円で切り詰める」など、自分の生活を律しながら、懸命に計画的な金銭管理を心がけています。
3. 日常生活行為の自立
一人暮らしの男性世帯であるため、炊事や洗濯などの家事もすべて一人で行わなければなりません。限られた生活保護費の中で生活するためには、外食ばかりに頼ることもできません。
家事の困りごとをあげたのは12人ですが、このうち5人が「食事の支度」に困っていると回答しています。自由回答の困りごとの中でも、「食生活に困る。料理のレパートリーが少ない。」と記入している人がいました。
食事を規則正しくとっていない人は9人いました。「一人だと食欲がわかない」「面倒くさい」などの理由からです。
多くの人が、「自立に対して自覚を持つこと」「生活をきちんとすること」など、居宅保護の生活づくりには自立精神や自己管理が大事だと認識しています。
4. 生活のリズム
「生活が乱れていると思うことがありますか」という問いに対して、4人に1人が「ある」と回答しています。金銭管理がうまくいかなかったときや、精神的なストレス、孤独感などがその背景にあるようです。
同居者がいたり、仕事や趣味など生活リズムを作るきっかけがない人は、特に生活作りが難しいといえます。
因果関係はわかりませんが、生活が乱れていると感じている人の半数以上が「部屋にこもりきりになることがある」と回答しており、その割合は、生活が乱れていると感じていない人よりも多くなっています。
5. 緊急時や困りごとへの対応
病気やケガを抱えているなど健康に不安のある人はもちろん、そうでない人も、「一人暮らしのため、いざという時が不安だ」という気持ちを抱いています。実際、生活保護にかかってから、救急車で病院に運ばれた人が5人あり、また「病気で一人で寝込んで困った」「食事ができなかった」などの困りごとも聞かれています。さらに、「孤独死」を心配する声もあります。
友人が少なく近隣との付き合いもなく、また民生委員やケースワーカーとのつながりも薄いため、「困り事があったときに相談者がいなくて困った」という経験を持つ人もいます。身近に相談相手や援助者がいないため、緊急時の不安は非常に大きいようです。
6. 友人関係、近隣関係
居宅保護の生活づくりをする上で、「友達づきあいを慎重にすること」「友達を選ぶこと」が大切であるという意見が多く出ました。友人間における金銭関係のトラブルや、近隣の嫌がらせなどの過去の経験が、新しい人間関係をつくりあげていく上での妨げになっているようです。
また、同居家族がいれば、家族が媒体になって社会とつながったり人間関係が広がる可能性がありますが、一人暮らしでは、社会とのつながりの機会がどうしても少なくなってしまいがちです。本人が意識的にコミュニケーションをとる努力が必要ですが、元釜ヶ崎労働者の多くはそのような経験や訓練を積んでいません。
元釜ヶ崎労働者に限らず、高齢者が見知らぬ地域で近隣関係を作っていくことは、難しいといえるでしょう。
7. 生きがいづくり(社会貢献と自己実現に向けて)
居宅保護の初期は、生活を軌道に乗せるのに精一杯でしょう。しかし、時間がたって周囲を見渡す余裕ができてくると、自分の将来や人生のことを考えるようになってくるのではないでしょうか。
「残された人生を有意義に生きるよう素晴らしい良い本を読み、それを信念に変えて日々生命が豊かに楽しく生きれるように努力が大事。」「何か一つでも生きがいを持つこと。人のために何かしよう。」など、すでに生きがいづくりに目を向けている人も何人か出てきています。このような要求に対して、本人が努力すればそれを実現できるような環境づくりが求められています。
(3)生活保護受給者の生活づくりを支えることの必要性とその手法について
1. 生活づくりの環境を整える
本人の生活は本人がつくりあげるべきものです。しかし、野宿生活者が、居宅保護によって生活づくりを行っていくことには、非常な困難を伴います。これは、心身に障害を抱えていたり、意欲や自信を失っていたり、情報や知識が不足しているなど、高齢者なら誰もが多かれ少なかれある状況に起因しています。しかしとりわけ、野宿経験のある高齢者にとっては、本人をとりまく社会の蔑視や無関心などの問題もあります。このため、多くの野宿生活経験者は、生活づくりの入り口である居宅保護にさえも、簡単には到達できないでいます。また、住居はできたけれど、頼れる身寄りや知り合いがいないという孤立孤独な状況の中で、生活保護での生活という新しいスタイルの生活を一人で作り上げていく難しさもあります。
まずは、生活づくりの入り口である居宅保護に移る支援を行うことが必要です。現状では、居宅保護の申請は、多くがボランティア団体などの勧めで行っており、本人が直接申請している事例は少ないです。これは、本人の情報・知識不足や、生活保護に対する誤解などが背景にあると思われます。必要な情報を必要な人に正確に提供することが求められます。
また、健康で文化的な暮らしができるように、敷金や保証人問題を含めて、適切な住宅の確保がスムーズにできるような仕組みを整える必要があります。
次に生活づくりですが、次項以降に掲げるように、本人だけではなく、本人をとりまくコミュニティの環境も整えていくことが大切です。
2. 自立生活を支援する仕組みをつくる
生活保護費内で計画的な生活を行うには、自分を律する強い意志と学習が必要です。ギャンブルや飲酒など、従来の生活習慣を改める努力が必要です。また、スーパーで買物をしたり、公共料金を払ったり、という経験を積まないと金銭管理はできません。
また、健康管理については、お酒やタバコを控えるなどの気配りをしている人もいますが、何よりも健康な食生活やリズムある生活を送ることが大事です。
しかし、男性の一人暮らしでは、このような生活習慣を身に付けるのは非常に困難です。食事づくり一つをとっても、栄養に関する知識や調理の訓練が必要です。もちろん、これは野宿経験者だけの問題ではなく、奥さんに先立たれ一人残された高齢男性も同じです。
生活づくりの初期は、金銭管理や健康管理について、見守りやチェックが必要だと思われます。また、安価で栄養価の高い料理の講習会や健康維持・管理に関する講習会などを随時開催することによって、金銭管理や健康管理の支援が可能になると思われます。このような講習会への参加を促すことで、ひきこもりを防止したり、生活のリズムをつくったり、趣味や生きがいづくりにつなげていくこともできます。
3. 緊急時や不安への対応
安定した生活を築いていくためには、不安を取り除くことが大事です。特に、一人暮らしから生じる不安やストレスの解消は急務です。
すでにさつきつつじ会やつきみそうの会では、安否確認事業や医療相談に取り組んでいますが、これはニーズに沿った重要な事業であるといえます。少なくとも、近隣関係や友人関係が構築でき、安全・安心の確認が回りの人間関係の中で行えるようになるまでは、安否確認事業や医療相談を定期的・継続的に行う必要があります。
4. 人間関係の構築の支援
友人や近隣とのつきあいなど人間関係が広がると、地域との接点が増え、地域に定着した暮らしが実現していきます。また、人間関係の広がりは、趣味や生きがいづくりにも大いに影響します。
人間関係を構築するのは、本人の力でしかできません。しかし、コミュニケーションをとるのが下手であったり不器用である人も多く、簡単には実行できません。
そこで、さつきつつじ会やつきみそうの会では、集いを利用してきっかけづくりを試みています。例えば、つきみそうの会では、コミュニケーションゲームなどを行い、会員間のコミュニケーションを図っています。また、どちらの会も、旅行や食事会、カラオケなどの趣味の会などを開催し、多様にきっかけを提供しています。
(4)今後の課題と展望について
1. 生きがいづくりの支援
前期高齢者や高齢者予備軍が多い現状において、余生を生き生きと暮らせるような生きがいづくりをいかに支援していくかが課題です。
生きがいづくりの一つとして、仕事づくりが考えられます。特に、高齢者の実情に合わせて、高度な技術を必要とせず身体的な負荷が大きくない軽労働の雇用を創出する必要があります。さつきつつじ会やつきみそうの会では、すでに、アパートの清掃や草刈などの仕事を請けて会員に紹介していますが、このような試みをさらに組織的に行い拡大していく必要があるといえます。
一方、今年度からホームヘルパーの講習会の実施を予定していますが、これについては、現在のところニーズは低いようです。ホームヘルパーには、ある程度の体力や知識が必要なので、前期高齢者や障害をもった人たちには難しい面があるかもしれません。しかし、ホームヘルパーの仕事について情報が少ないために関心が湧いていないだけかもしれません。新しい技術や知識を学ぶことは労力や忍耐や勇気が必要ですが、少し勇気を出せば、新しい自分の可能性を見出すことができます。
生きがいづくりはまた、人とのふれあいが広がっていく中で見出されていくという面もあります。仕事や趣味や遊びや語らいなどをとおして人とふれあい、その人をとおして様々な知識や情報や怒りや笑いや感動を受けることで、生活に広がりや変化やリズムが生まれます。また、友人知人関係が生まれる中で、自分自身が担う役割が広がったり変化したりします。「人のために頑張ること」はともかく、「人から口やかましくガミガミ言われること」さえ、生きがいにしている人はいます。
生きがいづくりとは、本人の努力や勇気を鼓舞し、新しい自分にチャレンジすることであり、また、人とのふれあいを育てることであるといえるでしょう。
2. 継続性のある支援体制の構築
大切なのは、継続して支援することです。
会員の健康状態や精神状態がどのような状態になっても、支えられる体制を整えておくことが必要です。このことが会員の安心感や生活の安定につながり、会員間や会員とスタッフとの信頼感を高めていくと思われます。
現在行っている有償ボランティア派遣制度などをさらに充実していくなど、将来を見越しながら、少しずつ、その体制を整えていくことが大事だと考えます。
3. 住みつづけられる地域づくり〜要支援・要介護状態における在宅ケアシステムの整備
加齢に伴い、会員の中には要支援・要介護者も増加していくと思われます。すべての会員のサポートを会の中だけで行うことは困難です。従って、行政サービスや民間の福祉サービスなどにつなげていったり、連携を取っていくことが必要になります。
とはいえ、あいりん地区やその周辺は、もともと労働者の町であったため、必要な福祉施設やサービスが不足しています。
住みつづけられるまち・地域を、地域の各種団体や地域住民と交流しながら、模索していきたいと思います。
4. 当事者主体の生活づくり・生きがいづくりの展開
以上、野宿に二度と戻らず釜ヶ崎−西成地区で穏やかに生活していくために、生活保護受給者に必要な支援のあり方と、会としての取り組みを考察しました。
しかし、何より大事なのは、本人の意欲や要望です。調査結果からも、自立精神や自己責任を課して生活づくりを行っている姿勢が強く見えました。会の活動への参加などを通して、各自の生活づくり・生きがいづくりを実践していって欲しいと思います。そのためにも、参加しやすい環境づくりを行っていきたいと考えます。
第2節 支援活動における「自立」の概念について
神戸大学 助教授 平山洋介
この調査は貴重な成果をあげていると思う。野宿生活から脱却して居宅保護の状態に辿り着いた人びとの実態はこれまでまったく知られていない。調査はデータを一方的に採取するのではなく、居宅保護者への支援という具体的な活動の一環として取り組まれた。調査の結果は多岐にわたるニーズを掘り起こし、支援活動のあり方に対する多くの示唆を含んでいる。
調査結果を通読して感じたことを書き留める。
とくに「自立」という概念について。私たちの社会では「自立」に価値が置かれる。「自立」することは「当然」とみなされている。政府は野宿者対策の施策を開始した。そこでは「自立」を支援する方針が基礎になっている。「自立」が社会の原則なので、野宿者が「自立」できるように支援する、という発想である。回答者の何名かも「自助」の必要を指摘している点が目を引く。
しかし、「自立」を「当然」とみなす考え方は実は「当然」ではない。価値のすべては社会的に構築されるからである。調査結果からは居宅保護者の大多数が複雑な問題をかかえていることが分かる。そのすべてを「自立」して解決できるかどうか、そもそも完全に「自立」した生活という状態があり得るのかどうか・・・・。どういうわけで「自助」に価値があって、「依存」は否定されるのか、を考える必要があるように思われる。すべての人びとは何かに「依存」して生きているのではないのか?
社会が「自立」を「当然」とみなしているので、「自立」した方が生きやすいだろう。しかし、「依存」を抜きにして生きることは最初から不可能であるし、「依存」は社会的な視線によって価値を奪われている、ということを覚えておく必要がある。
調査主体である複数のボランティア・グループは「助け合い」の活動を担っている。この「助け合い」は「自立」と「依存」の対立的な関係に何らかの変化を与える可能性を含んでいると思う。人びとは「自立」と「依存」の中間あたりで暮らしている、というのが本当のところだろう。奇妙な言い回しかもしれないが、「自立」するには「依存」が必要であるし、「依存」を主体的に欲するという行為は「自立」的である。「助け合い」の活動の継続が「自立/依存」の図式的な関係を溶解できれば素晴らしいのではないか、と感じる。
現代社会では「野宿」という状態はあってはならないことになっている。ところが「野宿」が増えているので、自助努力が不足している、という指摘がなされる。野宿者が居宅保護に辿り着けば、それでOK、ということになっている。しかし、調査結果は居宅保護者の生活が必ずしも安定していないことを多面的に示している。
何らかの価値を声高に主張する社会は、そこから外れる状態に対して抑圧を与える。誤解を恐れずにいえば、野宿者を含まない社会はこれまでに存在したことがない。野宿から居宅保護へ移行しても、野宿と居宅保護の境界は紙一重である。必要以上に「自立」の原則を振り回すのではなく、さまざまな問題をかかえる人びとが存在する、という現実を受け入れ、そのうえで「助け合い」を粘り強く継続する活動にこそ価値があるのではないだろうか。
第3節 生活保護とNPOの役割〜ニーズ調査結果からみえるもの〜
大阪府立大学 教授 中山 徹
1 ニーズ調査結果について
野宿生活の経験のある生活保護受給者に対する調査は、全国でも極めて少ないと考えられます。この84人に及ぶ生活保護受給者のニーズ調査は、その生活実態を把えている点で、今後の施策・実践のあり方を考える上で重要な意義をもつものです。幾つかの点について触れます。まず、第一に健康に不安のある人が多いということです。入院したことがあるものが4割、保護開始後でも3割となっています。また1/4は障害者手帳をもっています。第2に、求職意欲のある人が多いということです。回答者の約半数が仕事をしたいと回答しています。しかし、その現実は、かなり厳しい状況です。第3に、ふだんの生活で社会福祉援助などを要する人がやはり存在していることです。生活の乱れや部屋への引きこもりなどたぶんにメンタルなケアを要すると考えられる人が一定程度存在しています。また、近隣とのつきあいが少ない人や友人の数も多くはなく、社会的孤立状態にあると考えられる人も存在しています。
このような浮き彫りにされた実態を踏まえ、どのような福祉施策や援助が求められているのでしょうか?
2 生活保護制度とソーシャルワーカーの役割
周知のように、生活保護制度は、国民に対して、最低限生活保障と自立助長を目的とした制度です。ナショナルミニマムの保障と世帯個々の生活課題に即して対人援助を行うという二つの役割をもっています。そこで、地区担当のワーカーは、利用者の生活実態を把握し、経済的状態に即して収入認定を行い扶助費を提供するだけでなく、生活保護法や他の法律にもとづく施策などの活用により生活の安定・向上を図ることや、人間関係の調整や新たな関係の構築などを行うとされています。つまり、経済的な自立のみならず、社会の中でできるだけ自分で生活する力を醸成していく福祉実践の重要性が指摘されています。
家庭訪問、就労援助、療養援助、援助計画の見直しといった内容がその社会福祉実践の具体的内容です。生活保護受給者の生活の場である家庭や施設などに直接出向き、その生活ぶりを観察し、どの程度生活が充足しているかをみる必要があります。仮に生活の不自由さがあれば、生活保護や他法他施策などの公的な社会的資源や、近隣などの私的な社会的資源の活用を図る必要があります。また、生活保護受給者の労働能力の状態によっては職業安定所などに一緒に出かけて就労先を探すなどの同行訪問などの具体的指導も指摘されています。
このような具体的で、きめの細やかな援助があって初めて生活保護制度が実質的に機能するのです。(経済的援助だけではないということが重要です。) しかし、現在、ソーシャルワーカーの1人あたりの生活保護受給者のケース数は、通常80ケースをはるかに超えています。野宿生活者であった人を担当するワーカーの場合、一人あたり200名を超えていると伝えられています。このような状態の中で、生活保護受給者に対する十分な社会福祉実践は不可能と考えられます。
そこで、今、行政(公)とNPO・ボランティア(私)とのパートナーシップの重要性が問われてきています。
元野宿生活者であった生活保護受給者の大部分は、高齢者であり、再び就労自活のいわゆる自立を実現することができにくい人々です。長期の過酷な路上生活のゆえに心身ともに疲れ果て、今ようやく台所と4.5畳〜6畳程度の空間を最後のよりどころとして確保しました。生活保障さえすれば路上生活者問題は終わりではありません。ニーズ調査の結果から分かるように、親族関係や近隣との人間関係の希薄化、孤独感、引きこもりといったメンタルなケアの問題は、決して軽視してはならない問題です。
厚生省は平成12年12月8日「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉に関する検討会」の最終報告をまとめました。この中で現代の社会福祉の対象となる問題として「(1)心身の障害・不安」(社会的ストレス問題、アルコール依存、等)(2)「社会的排除や摩擦」(路上死、中国残留孤児、外国人の排除や摩擦、等)(3)「社会的孤立や孤独」(孤独死、自殺、家庭内の虐待・暴力、等)といった問題が重複・複合化しているとし、新たな「公」の創造として、「今日的な「つながり」の再構築を図り、全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う(ソーシャル・インクルージョン)ための社会福祉を模索する必要」を提案しています。そのために、「公的制度の柔軟な対応を図り、地域社会での自発的支援の再構築が必要である」と指摘しています。特に、地方公共団体のみならず、「社会福祉協議会、自治会、NPO、生協・農協、ボランティアなど地域社会における様々な制度、機関・団体の連携・つながりを築くことによって、『新たな「公」』を創造していくことが望まれよう。」と述べています。このように地域で生活するものに対して、行政(公)だけでなく、社会福祉協議会やNPO、ボランティア組織との連携・情報交換や共通の課題を有する人々との定期的な交流の場などを活用し、「孤立した人々への見守り的介入」をしていくことが求められています。
参考文献
ふるさとの会『高齢路上生活者』東峰書房、1997年。
岡部卓『福祉事務所ソーシャルワーカー必携−生活保護における社会福祉実践』全国社会福祉協議会、1998年。
東京ソーシャルワーカー編『How to 生活保護』現代書館、1997年。
第4節 地域に根ざした生活づくりのために
さつきつつじ会 森口芳樹
ニーズ調査にふまえて、生活づくりのための課題について考えたいと思います。
ひとつは、孤独死の問題です。ニーズ調査では7割の人が健康不安を訴え、孤独死への不安も出されていました。私たちは昨年6月から安否確認巡回訪問にとりくみましたが、昨年6月から今年1月までの間に5人の方が亡くなられました。3人が孤独死、1人が自殺、1人が入院先での病死です。対象者90人のうちの5人です。事態の深刻さを痛感します。
Aさん(69歳、男性)は昨年7月17日にアパートで遺体で発見されました。肝臓病が原因です。近所のさつきつつじ会の会員が心配して、何度かアパートを訪ねたのですが、返事はありませんでした。発見されたときには死後10日たっていました。緊急通報システム付福祉電話の手続きも進めていたのですが、一歩間に合いませんでした。
Bさん(60歳、男性)は昨年9月8日、アパートで遺体で発見されました。死後1週間です。心臓病が原因です。8月20日に安否確認で訪問したときには会えませんでした。
Cさん(71歳、男性)は昨年11月1日、病苦で自死されました。心筋梗塞とうつ病、アルコール依存症が重なって追いつめられました。さいごの数日は近所の友人が毎日話して励ましましたが、支えることはできませんでした。
孤独死や自殺はつらいです。孤独死を防ぐ切り札はありませんが、安否確認巡回訪問を地道に続けていくことと、日常的な支え合いの関係をつくっていくことだと思います。
ふたつに、人とのふれあいの問題です。
ニーズ調査では友達とのつきあいはかなりしぼっていることが示されています。友達なしの人が2割、5人以下の人が7割に達しています。また近隣関係をめぐっては近所の人とのあいさつ程度のつきあいはあるが、地元の祭りなどへはほとんど参加していません。
日常的にうわさ話する関係がほとんどないといえます。うわさ話する関係は生活の活力です。これがないとストレスがどんどんたまっていきます。
こういう中で、部屋にこもりきりになることがあると答えた人が3分の1をこえています。部屋への引きこもりは生活の意欲を奪っていきます。重視しなければなりません。
一方、できるだけ外出しようという意欲もうかがえます。趣味の上位を占めているのは散歩、釣り、読書、映画など、一人で楽しめるものが多いです。老人福祉センターや図書館もよく利用されています(4割)。
また就労希望が約半数ありました。その多くは軽作業希望です。注目に値します。さつきつつじ会での経験からいえば、週4〜5日、毎朝8時に集合して清掃作業に行くのは毎日の生活リズムを作っていくことになります。また、5000円前後でも収入があればわずかですが余裕を生みます。ただ、みなさんの体調もあり、希望はあっても毎日通うことが難しい人も多いです。
部屋にできるだけ引きこもらず人とのふれあいを広げていくことは生活づくりにとって大きな課題です。そのためには、高齢者が気軽におしゃべりできる場が近所にあればずいぶん違います。寒い日でも公園で、年寄りが集まって話している風景をよく見ます。地域の公民館や集会所が憩いの場やグループづくりの場としてもっと広く利用していけたらと思います。また、高齢者の体調に見合った仕事(作業)を作っていくことも大事です。そのひとつの柱は地域での助け合いだと思います。安否確認や話し相手、買い物などです。助け合いの雰囲気ができてくることは大きいです。基本的にはボランティアですが、軸になるところは有償という形をとらないと長続きしません。
みっつに、精神的なケアの問題です。
この領域は今回のニーズ調査では自由意見での「孤独死の不安」などとして示されました。この問題は、野宿生活の精神的ダメージと老いの不安、孤独感が重なってあらわれているように思います。野宿を余儀なくされている労働者は生活の苛酷さと同時に、世間のまなざしによって精神的に深く傷ついています。生活保護でひとまず落ち着いても、傷を癒していくのには時間がかかります。釜ヶ崎−西成という住み慣れれた地域はそれに適しているみたいです。だけど、何かのきっかけで生活リズムが崩れたときには傷口が一挙にさらされます。どのように整理していけばいいのかわかりませんが、重要な課題だと思います。
よっつに、ケースワーカーの現状の問題です。
7人に1人(16.7%)の人がケースワーカーを知らないと回答しています。さつきつつじ会の99年12月の会員アンケート調査では28人中知らない人は1人だけでした(その1人も軽い痴呆症状があり名前を覚えられない人です)。2000年5月の福祉事務所の機構改革以降、状況が大きく変わってきたと思います。さらに、この1年間のケースワーカーの訪問回数は0回と1回を合わせて5割を超えました。由々しき事態です。ケースワーク(対人援助)はきわめて不十分といわざるをえません。
最近の生活保護の流れで自己責任が強調されています。しかし、自己責任の強調が行政の責任をあいまいにすることにはなりません。ケースワーカーの一部に見られるのは、一方で「生活すべてを管理する」という立場から「指導する」という発想を根強く持ちながら、他方で援助が本当に必要なところで「自己責任」の名のもとに責任を逃れようとする対応です。このような傾向が広がっていくことを危惧します。生活保護法はケース80人にワーカー1人と定めています。安易な人員削減をすべきではありません。そのツケは結局のところ生活保護受給者におしつけられます。
<自立助長を支えるサポート体制を>
ニーズ調査には84人の方の生活の営みが示されています。多くの悩みや不安を抱えながらも、自立精神旺盛に様々に工夫を凝らしながら生活している姿があります。しかし、一人でやれることにはおのずと限界があります。地域で自分らしい生活を作っていきたいという意欲を形あるものにするためには、「自立と社会参加」という考え方がきちんと位置づけられなければなりません。
生活保護は一つの制度であり、生活づくりの手段です。生活保護法は最低生活の保障とともに自立助長をうたっていますが、自立の中身は就労自立だけに狭く解釈されてきました。自立とは、自分らしい生活を人の手助けを借りて人生のさいごまでつくっていく権利だと思います(自己決定権)。自立と社会参加という考え方があれば、地域で自分らしい生活をつくっていくためにはどうしたらいいのか、どんなサポートを必要とするのかが問題になると思います。自立と社会参加を支える援助こそが必要です。
このことは生活保護受給の高齢者だけに限りません。援助が必要な高齢者すべてが対象になります。先にあげた生活づくりのためのいくつかの課題は野宿経験のある、なしに関わらず単身高齢者の抱えている問題でもあると思います。
だけど、単身高齢者を支援していくシステムはあまりに不十分です。確かに介護保険制度はできましたが、介護保険の在宅サービスによって逆に部屋への引きこもりが助長されたというケースも指摘されています。阪神大震災の被災地神戸では生活支援員派遣制度(LSA)が高齢者の支援に大きな役割を果たしたと聞きます。LSAの仕事として安否確認をはじめケースワーク、グループワーク、コミュニティワークがあるそうです。さつきつつじ会のスタッフの仕事と同じです。おそらく被災高齢者と、野宿脱出後の生活保護受給者のおかれれている状況、問題になっている領域が似ているからだと思います。LSAのような制度も含めて、単身高齢者の生活づくりを支援していくシステムが行政やボランティアなどの協力によって作り出していくことが求められていると思います。
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