釜ヶ崎−西成の単身高齢者の生活づくりのために
生活保護のしくみと活用の仕方








        生活保護受給者の会
           さつきつつじ会


 2000年5月27日、大阪市立阿倍野市民学習センターにおいて第1回釜ヶ崎−西成の単身高齢者支援セミナーを開きました。テーマは「生活づくりのために生活保護を活用しよう」です。セミナーでは横石金男氏に生活保護のしくみと活用の仕方について講演していただきました。
 この小冊子は横石氏の講演と討論をまとめたものです。生活づくりのために少しでも役立てばと思います。


この小冊子は社会福祉・医療事業団高齢者・障害者福祉基金)の助成金により発行されました。


講師/横石金男氏
    1947年生まれ。52歳
    1972年(昭和47年)大阪市役所採用。
    西成区役所をはじめ各区役所の福祉事務所でケースワーカーを長年つとめる。
    ケースワーカー歴25年。


『生活保護のしくみと活用の仕方』

生活保護のしくみ
  (1)成り立ち
  (2)生活保護の原理
  (3)生活保護の原則
  (4)生活保護の種類
  (5)実施責任
  (6)生活保護者と制度

生活づくり
  (1)生活保護に対する誤解と緊張
  (2)計画的消費生活
  (3)生活の住環境
  (4)生活慣れどきのゆるみ
  (5)仲間づくりと生活

これからの課題

質疑応答


生活保護の仕組み


(1)生活保護法の成り立ち

◎昭和2l年9月に「旧生活保護法」ができたのですが、戦後の混乱がおさまりその矛盾や限界が生じたので、改正することになりました。
◎昭和25年5月に今の生活保護法ができましたが、これを「新生活保護法」といいます。「旧生活保護法」とは大きく違ったものなのでこのようにいいます。
◎この違いは、救護法(社会福祉の法)と社会保障の法との違いといえます。社会保障は社会における生活の不安を解決して行くシステムです。
◎「新生活保護法」は50年の間ほとんど改正される事なく実施されてきました。その間は、厚生省の通知などで社会の変化に応えてきました。
◎平成12年の今も同じです。50年の間に、社会も国民の考え方も変わりましたが、長いこと実施要領によって仕事をしてきたため、法律が変わらない(変わることはない)のに実施要領に慣れてしまったために、国民の期待と少しずれたものになった感じがします。


(2)生活保護の原理:

  この法律を支えている基本的なことです。 
◎最低生活の保障と自立の助長
◎無差別平等
国の決めた基準で、生活に困っている人は差別なく最低生活を保障するというものです。
◎健康で文化的な生活
◎補 足 性
無差別平等とはいうものの、生活保護を受けるためには条件があり、できるだけの努力をしても最低生活を維持できないことです。この条件が、必要以上に生活保護の門をせまくしたり、また現代にあわなくなってきているものもあり、間題になってきております。相談に来られた多くの人が感じる間題です。
 これは、日本国民であればだれでも国の決めた基準より困っていて努力しても改善されなければ、国が人たるにふさわしい生活を保障するというものです。同じことですが、次のようにもいわれています。
◎基本的人権の尊重
◎人たるに値する生活の保障
◎無差別平等の取扱
◎国家責任の確立
◎補足性による実施
これに国民の権利としての生活保護の申請権と不服申立の権利の加えれば、人権の尊重が分かりやすいと思います。また、この考えは、生活保護から漏れる人(世帯)がなくなるために必要と考えられているものです。


(3)生活保護の原則

これは具体的に生活保護の相談を受けたときに、困っているかどうかを判断するためのものです。
◎申請保護の原則
生活保護は本人か親族が申請することになっております。緊急のときや本人も家族も申請することができない時には例外もありますが、友達では申請できません。本人の意思を碓認することになります。
◎基準及び程度の原則
国の決めた基準より少ない収入の人(世帯)に、国がお金などを足して、国が決めた基準の生活を保障しますいうことです。厚生大臣が決めます。
◎必要即応の原則
基準や程度の原則では不足する一時扶助などもここに入ります。
◎世帯単位の原則
世帯単位で考えますから、一人だけ困っているからその人だけの保護にはならず、世帯全体で困っているかどうかを判断するというものです。


(4)生活保護の種類

生活保護は生活の部分部分に分けて、困っているところを扶助するものです。ゆりかごから墓場まで考えられています。
◎生活扶助
◎教育扶助
◎住宅扶助
◎医療扶助
◎介護扶助
◎出産扶助
◎生業扶助
◎葬祭扶助


(5)生活保護の実施責任

あいりん地区には2つの福祉事務所があり実施責任の理解を得にくい点がありますが、実施責任は困っている人のたらい回しなどを防止するためなど大事な役目をもっているものです。


(6)生活保護者と制度

◎生活保護者の支援の制度−ケースワーカーと民生委員
生活保護は困窮する国民の最低文化的生活を保障するために、保護費の支給の他に彼らを支援するために福祉事務所にケースワーカーを、地域には民生委員を配置しています。保護者が自立する努力などの協力をするためです。社会資源が整備されるまではケースワーカーや民生委員は保護者の生活のあらゆる面の協力者でした。食事を作る人もいましたし、パンなどを買って運ぶこともありました。しかし今は、へルパー制度などがありその必要はなくなりました。関係は薄くなったと思いますが、そのぶん専門的な関係になり、社会資源の紹介や活用を求めますし、保護者はそれを利用して自分の生活を充実させる責任をもつことになります。

◎生活保護基準の移り変わり

(1)マーケット・バスケット方式=全物量方式
 生活保護は50年の歴史があり、社会の変化に合うように運営されてきました。はじめは保護費は、軽労働日雇労働者の収入を基準に、生活保護を受けている人達が生活して行くことができるぎりぎりの水準でした。世帯員一人一人の生活に必要な経費を計算して決められていました。例えば米がいくら野菜がいくらというふうに。だから、生活に必要な家財道具などの購入費は考えられていませんでした。生活保護を受けていて急に必要なものを買わなければならないときには、保護で認められているものは一時扶助として支給できましたがそうでなければ辛抱するしか方法がありませんでした。

(2)格差是正方式から標準均衡方式へ
 社会が豊かになってきますと考えが少し変わり、保護費を上げる方法を工夫してきました。また、教育に対して社会の考え方が変わってくると、高校進学を認めたり、今は、その世帯の自立に役立つと認められれば、働いて家の助けをしなくても大学に行くことができます。その時は、大学生だけは保護を切られ自分で生活しなければなりませんが。少なくとも、家のために学校をやめなければならない事はありません。
 保護費が少し上がってきてからは、生活保護を受けている人達への責任を求めることが多くなりました。自分の生活は自分でまかなうことを求められてきました。だから、一時扶助が少なくなってきました。保護開始時に保有できる生活必需品は多く、そこから出発する人達には毎月の保護費から少しづつ蓄え、万一に備えることを求めています。しかし、保護開始時に家財道具などがほとんど無い人達は大変です。支給できる金額は決まっていますし、生活の基盤となるものを少しづつ買いそろえなければなりません。また、保護開始時に手持ち金として保護費の半月分は認定しません。このように、同じ生活保護で生活する人達であっても、条件によって生活づくりの出発から落ち着くまでの間は個人差が大きく出てくることになります。生活づくりの難しさが出てきました。この事は悪いことではありませんが、生活保護の制度では協力できないことがあり、個々で工夫をしなければならず、こころしてかからなければならないことです。

◎生活保護の目的に一つに、被保護者には生活保護を活用して自立して行くことが求められています。また、働くことのできる人は働く義務があります。このように、個人に求められるものがあるために、それが、生活保護運用に混乱をもたらすこともあります。時にはそれが、生活保護を受けにくくすることにもなっております。保護費については、ずいぶん改善されましたが、運用は複雑になってきているといえます。それは、生活保護で生活をする人や生活保護の相談をしようと思っている人などに精神的な負担となることが増えたいうことであります。

◎社会保障制度の整備と普及など充実してくると社会に対しても個人の生活にも「社会と個人はお互いが責任を分担して」取り組まなければならなくなります。そのためには、自分にあった生活スタイルをつくることと制度の整備が必要です。


生活づくり


(1)生活保護に対する誤解と緊張

◎生活保護を受けている人が全て感じていることではありませんが、生活保護を受けているというだけで肩身の狭い思いに悩んだり、必要以上に気にした生活のため人間関係など社会関係がぎくしゃくしてくることがあります。そのような人は、ささいなことでトラブル事があります。平穏な生活の障害となりやすいのです。

◎このことは、保護者だけの間題ではありません。今は随分少なくなりましたが、彼らを取り巻く回りの人達にも間違った考えをもっている人達もいます。

◎毎日の事ではありませんが、間違った考えが保護者の生活に緊張を持ち込みます。


(2)計画的消費生活

◎生活保護費が生きて行くだけの程度に近いときは、生活必需品などが急に必要になると、その基準だけではまかなえないために一時扶助として支給していました。これは、生活保護が生活を縛り付けているようなものです。生活者が自分の責任で生活するのは、生きて行くためだけと極論できます。そのころは、米味噌などは一カ月分買っておくように話す程度でした。この状態は、生活保護受給者を保護に依存させるだけになりやすいと心配する人もいました。

◎今も保護費の基準が高いとは言えないかも分かりませんが、一人暮らしの人に生活費の使い方について話をするときには、1日1500円から2000円程度にして月1万円から2万円ぐらいの余裕をつくり、少しでも蓄えて万一に備えたり自分の楽しみや趣味に使うようにしたらどうですかと言います。自分で自分の生活をつくることを求めます。生活保護に対する考えの変化によって、生活保護者の生活の仕方、責任の取り方への期待も違ってきます。家具什器費や布団代などの支給の制限も厳しくなってきました。生活保護(ケースワーカー)と生活が直結したような生活から、いくぶん個人の思う生活へと変わってきたということです。自分の生活ができるという豊かさは感じられるでしょうが、別の目で見れば困ったときに頼りにくくなったということでもあります。

◎自由につかえる分が増えるだけ、計画的な生活が必要になります。


(3)生活の住環境

◎あいりん地域で生活していた人は、地区外のアパートで生活するより、地区内の簡易宿泊所から共同住宅に変わった所で生活する方がトラブルは少ないようです。生活のリズムが関係しているのでしょう。地区内の住宅は狭く在宅支援を受けるには問題があるし、友達が来てくつろぐには狭く、一長一短あります。

◎生活のリズムだけでなく生活保護を受けているという強い意識もトラブルの引き金になりやすいです。孤立して生活している人ほど多いようです。

◎住居は生活の基本的なものですから、その人に合った環境がよい事は言うまでもありませんが、人はいつも少し上の生活を求めておりますから日頃からその思いを吸収できる所をつくっておくほうが安心です。ほんのわずかではありますが、生活が落ち着くまでに近隣や家主がおかしいと訴える人があります。


(4)生活慣れときのゆるみ

◎生活しはじめて2か月ぐらいのときに気がゆるみ生活に乱れが出る人がいます。自分の生活が見えて感じることや、地がでてしまうこともあります。


(5)仲間づくりと生活

◎生活保護を活用しての生活が少し自由になると、孤立も強く感じるようになります。孤立した生活になると、自分では気がつかないうちにいろいろと問題行動をとってしまいがちです。
◎時代とともに生活保護制度とそれを活用して生活する人との関係や期待が変わってくると、生活者は生活を守るための工夫をして行かなければなりません。ただ生きるだけの工夫では気がつかないうちに行き詰まってしまうことが多くなります。

◎生活保護の積極的な活用で生活の基礎づくりはできますが、その生活基盤を確かなものにしていくためには、仲間づくりや自分の能力の活用場所を見つけたり、趣味を生かすことです。そのためには、ただ仲間が集まるというだけでなく、支え合う仲間のグループづくりが必要になります。社会参加や積極的な能力の活用ができれば、より豊かな生活づくりができると思います。

◎生活保護では、生活基盤の強化や仲間づくりへの支援は考えられません。日々の生活を支えることにとどまるのです。今は、次のステップの部分は個人や民間など自主的な活動に頼らざるをえません。民間の福祉と公の福祉が、ただ住み分けるだけでなく、協力して行くことができれば生活保護を活用した生活づくりは安定性を高めることができます。また、生活保護の理解不足が引き起こす不幸も防ぎやすくなります。


これからの課題


(1)社会参加:仲間づくりの広がりと連携

(2)能力などを生かす場所の開発:授産所人材派遣システムの開発


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